近代世界をリードしてきたイギリス
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EU離脱をめぐる2016年の国民投票の後、レグジット問題で揺れに揺れているイギリスですが、産業革命や資本主義生産によって、かつて近代世界をリードしたのはイギリスでした。
また、イギリスは入国審査が厳しいことでも知られていて、少しでも入国目的に疑義があれば何時間でも徹底的に追求されることでも有名です。
イギリスは基本的にカード社会ですから、買い物をするときはほとんどの人は現金を持ち歩かず、カードで支払いをします。しかも、ICチップ付きのクレジットカードがほとんどで、サインの代わりにPINナンバーを入力するタイプです。
小学校からサインがきれいに書けるような練習をするほどです。ですから、サインはすることはあってもはんこを捺すという習慣がありません。というか、そもそもはんこは存在しないのです。
古代ギリシャ、古代ローマ時代には文字が読めない書けないといった人たちの間ではんこが一時、使われたこともありましたが、はんこ文化は根付くことはありませんでした。
元は印刷の図版用「アンティークスタンプ」
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アンティークなイギリスのスタンプを見かけることがありますが、じつはそれらのスタンプはその昔、印刷屋で使われていたものなのです。
1440年頃、ドイツのグーテンベルクが鉛を主成分とした金属合金鋳造活字技術を発明し、鋳造活字による活版印刷が盛んになりました。そのため、15世紀後半から16世紀にかけて西ヨーロッパ全域でメディア革命が起きることになったのです。
この活版印刷というのは、鉛でできた「活字」を組みんで、はんこのようにインクを乗せた後、圧力をかけて印刷するという方法です。それまでは木を使った木版印刷が行われていました。
この木版印刷は最も古い印刷方法で、7世紀ごろから中国で経典や紙幣などの印刷に使われていた印刷方法です。
木版には板目木版と木口(こぐち)木版があり、板目木版は、板を版材とし、これに彫刻をし、ハケで水性インキをつけ紙を当て、その上からバレンで擦って印刷をします。日本では、江戸時代まではこの方法で本を作っていました。
一方、木口木版というのは、木材を横に切った板に彫刻した版を使う方法で、イギリスで開発されたものでした。当時は印刷が盛んな時代だったため、しばらく使うと版木が削れて使い物にならなくなり、すぐに新しい版木が補充されたのです。
このひとつひとつの版木は機械ではデザインしきれない程、繊細にできたもので、職人の手で丁寧に作り上げられてきたものです。これがイギリスで出回っている「アンティークスタンプ」と呼ばれているものなのです。
ですから、アンティークスタンプは印刷に使われていた古い図版なのです。
このアンティークスタンプはコレクターも多く、長年愛され続けているのは職人により手彫りの味わいのあるものだからです。
国の印鑑と封蝋
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日本以外には、イギリスにははんこの文化はほとんどありませんが、国の印鑑というものがあります。国の印鑑は、欧米諸国にも多く存在しています。もちろん、国の印鑑ですから、一番重要なはんことなります。このはんこを「国璽(こくじ)」といいます。
日本では天皇の印鑑である「御璽(ぎょじ)」は飛鳥時代からありましたが、「国璽(こくじ)」は比較的新しく、明治維新以降に作られました。
一方、西洋では国璽をグレートシール(Great Seal of the Realm)と呼びます。
イギリスでは11世紀にエドワード王が用いたのが最初といわれ、令状や布告などに用いられました。イギリスではこのグレートシールを管理するのは、ウェストミンスターの大法官府。現在でもイギリス王室の公文書には目的別に色を分けて捺印されています。
そのほか、はんこのように使われているのが、「封蝋(ふうろう)」、または、印璽(いんじ)、英語ではシーリングワックスです。
中世ヨーロッパの貴族が主に用いていたのですが、手紙の封印やビンなどの容器を密封するために使われていました。封をしておくことで、開封されてないことを証明するという、一種のセキュリテイだったのです。捺されていたのは家の紋章をかたどったものでした。
ところが、第一次世界大戦後は、貴族の没落によりその習慣も次第に廃れていき、現在では、お酒の瓶や香水のパッケージなど高級感を演出するアイテムとして、また、手紙やプレゼントのラッピングのおしゃれアイテムとして見ることが多くなりました。
日本ははんこが発達してきた国ですが、イギリスでははんこは根付かず、サインが発達しました。世界で今もはんこ文化が続くのは日本だけです。
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