「奥付」は本の身分証明書
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書籍の奥付に捺されている「著者検印」というものを知っているでしょうか?
現在では見られなくなりましたが、古い本には、たいていはんこを押した小さな用紙が貼られています。これが「著者検印」というものです。
まず、そもそも、奥付というのは何なのでしょうか。
本にはたいてい奥付というページがあり、たいていは一番後ろのページです。
そこにはおおまかに
1書名
2著者名
3発行者名、発行者の住所
4出版社
5印刷者名、製本所名
6出版年月日
7コード番号など
が書かれてあります。
この奥付のページはいわば本の身分証明書のようなものです。本にはサブタイトルなどがついていて、どれがメインタイトルなのかがわからないものもあります。しかもタイトルが長かったりすると、どれが本の名前なのかも見当がつきません。
そんなときはこのページを見ればわかります。
本の最後のページですが、あくまで記録のようなものですから、これを読んでも面白いと感じる人はいないと思います。
あくまでもその本の記録でしかないからです。
しかし、この奥付ページを見ればいつ作られた本なのか、誰が担当したのか、また、どの印刷所が印刷したのかといったことがわかるようになっています。
そのページに入っているのが「著者検印」です。では、このはんこは一体何のためのものなのでしょうか。
「著者検印」は海賊版の防止策だった?
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「著者検印」はその名の通り、書いた人のはんこが捺されたものをさします。
今では古本屋で売っている古い本にしか見られませんが、奥付を開くと小さな薄い紙にはんこが捺された紙が貼られてあるものがあります。
その上にしっかりというかべったりとのり付けされて貼られているものから、すぐにはがれてしまいそうなものまで形態はさまざまです。
それが著者検印です。
これは、明治時代に出版制度が整えられていく過程で出来たシステムです。
目的は本の著者が制作部数を確認するためのもので、用紙にはんこを捺して、発行部数を確認していました。
理由は出版社が著者と取り決めた以上の部数を発行しないようにするためです。そんなことを聞くと何だか出版社が信用されていないようですが、当時は勝手に海賊版が出回る時代でした。
売れる本はどんどんとコピーされて勝手に売られてしまうのです。その時代、バレなければ何でもありの時代。ネットもなく、交通網も発達していないので、バレなければ儲けられたのです。それを防ぐための手段がこの「著者検印」だったのです。
著者のはんこが捺されているものは正規品ですが、コピー本には当然ですが捺されてはいません。
しかし、小さく薄い紙にはんこを捺して、それを手貼りしていたのですから、当時はたいへんな労力だったと思います。
出版社が信用されていなかった時代、著者たちも本を書く以外にもはんこを捺したり貼ったりと苦労もつきなかったようです。
「著者検印」の読み取り方
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日本が文学的及び美術的著作物の保護に関する「ベルヌ条約」に加盟した後、明治32年、「(旧)著作権法」でに「版権」から「著作権」という言葉に変わりました。
これにより、著者と出版社は、本を出すときに「買取契約」もしくは「印税契約」と呼ばれる契約を結ぶようになったのです。
買取契約は、その名の通り、出版社が著者から著作権を買い取るというものですから、どんなに売れたとしても報酬は増えませんが、印税契約なら、著作権は著者が持ったまま。ですから売れれば売れるほどギャラが支払われることとなります。
「著者検印」の部分をよく見ると、はんこの捺されているところの周辺に契約内容がわかる部分が必ずあります。
たとえば、はんこの周辺に「此欄内に著作者の印章捺印なき者は偽版也」とあれば、これは印税契約ということがわかります。
もっとわかりやすく「版権所有」という文字が打たれたものもあります。
出版検閲のために奥付を義務づけていた出版法は、昭和24年に廃法となったため、実は奥付は法的なものではなくなりました。そのため、奥付をみても今では「著者検印」もなければ、この本が「買取契約」なのかそれとも「印税契約」なのかまでは読み取れません。
しかし、風習からか奥付はしっかりと残されています。これも独自の日本文化のひとつといえるのかもしれません。
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